「お姉ちゃん、どこへ行くの!?」


後ろからレイシャの叫び声が聞こえたが、私は振り返らなかった。
やまない雪の中を進んでいく。

頭がぼんやりしていた。
物事がうまく考えられない。



急に体の周りが暖かくなった。

雪は変わらず降り続いているのに、一片も私に触れていない。

身に覚えのある現象だ。


「……吸血鬼、いるんでしょ」


私は白い景色に向かって尋ねる。

予感があった。吸血鬼がすぐ傍にいるという。


「私に何をしたの」


真白の中に薄い紺が滲む。

それはだんだんと濃くなり、吸血鬼のマントを形取っていった。


「別れの晩餐は済んだか」

感情の欠けた声が響く。

それは雪の粒よりも鋭く、私の心を刺した。


「どういうこと…?」

「そのままの意味だ。お前は私の血を飲んだのだろう」


飲んだ、ような気もする。
記憶がひどく曖昧だ。


「人の元では暮らせぬ」

「そんな…」


吸血鬼は私に近づいてくる。

ナイフで人差し指を切り、私の目の前に差し出した。


私はぐらりと目眩に似た感覚に襲われる。


理性では押さえつけられない、足りなかったものを見つけた喜びに支配された。