吸血鬼の花嫁



「絆ってさ、不思議だと思わない」


不意に青年が言った。

青年の細い声は、馬車の揺れる音の中に紛れてしまいそうだった。


「ん?」

「絆は一人じゃ作れないだろ。必ず、自分と自分以外の誰かが必要なんだ。

だけど、一方が絆を切ってしまったら、その絆は簡単に失われてしまう」

「確かにそうだなぁ」


ジェフは哲学的な話が苦手である。

青年の言いたい話はなんとなく分かるが、それが何を意味するのかさっぱりだ。

いい加減なジェフの相槌を、隣の青年はさして気にしていないようだった。


「じゃあ、切られてしまった側は、その絆をどうしたらいいんだろうね。

自分はまだ繋がっているつもりなのに、本当は、もう誰にも繋がっていないなんて」


話の内容よりも、青年に付き纏う諦めが、どうにも気にかかる。

ジェフよりも若いはずなのに、何年もさ迷っていたかのようだ。


「その、切れてしまっても、結びなおすことができるはずだ。

だから、あまり気を落とさないように」

「ありがとう」


青年は茶の瞳を細める。


「物語は所詮物語。真実を語っているわけではないと分かっているんだけどねぇ」


自分に言い聞かせるように言いながら、青年は顔を歪めた。

そして、どうしてそこには、俺がいねぇんだろう、とぞんざいに呟く。


青年には似合わない子供っぽい口調に、ジェフはおやと首を傾げた。


ジェフの戸惑いに気付いたらしい青年が、照れたように苦笑する。


「これは、失敬。すっかり知り合いの喋り方が移ってしまって、昔の口調は引っ込んでいたはずなのに」

「いやいや、気にせんでくれ」


この青年にも、あんな風に喋っていた頃があったのだと知り、ジェフはなぜか安堵した。

年頃にしては、青年の雰囲気が落ち着き過ぎているような気がしていたのだ。


「ところで、サウザンロスまでは、あとどのくら…」


言い終わらない内に、青年が体を折り曲げる。

そのまま激しく咳込みだした。