「おい、今のうちに撃つんだ」
「早くしろっ」
強い風が吹いている。
風は、悲鳴のように鳴いていた。
「何も、しないでおいてやろう」
感情を抑えた低いユゼの声。
「所詮お前たちなど、私にとっては幾多の塵芥と違いない」
ぎゅっと、私を抱く腕に力が入った。
「だが、私は私の花嫁の願いを叶えるために、お前たちを傷付けないでおいてやろう。
そして、お前たちの望み通り、二度と人の住まう地には戻ってこない。
最後の絆は、失われてしまったのだから」
宣言と共に、ユゼがばさりとマントを翻した。
「待て、どこへ行くっ」
「逃がさんぞ」
人々の叫びがだんだん遠退いていく。
聞こえるのは雪の降り積もる音だけだ。
世界に私とユゼしかいないかのようだった。
そして、全てが闇に紛れていく。