廊下を並んで歩きながら、私はユゼの話を聞く。
「人と、人なら白黒をつけても構わないのかもしれない。
だが、眷属に囲まれて過ごす紫焔は、人よりも拒絶に慣れていない。
そして、ルーはこの先も紫焔を、恋人やそれに類する存在としては見られないそうだ」
「うん」
未来永劫平行線のままとルーは表現した。
思いが交わることはない。
「例え恋や愛でなくとも、ルーは紫焔を大切に思っている。
だからこそ、悩んで出した答えだ。紫焔もそれが分かっている」
「そう、なの…」
朧げながら、分かってきた。
それは、恋や愛という好きではなくとも。
ルーとミルフィリアでは種類の違う好きであっても。
好きであることには違いない。
二人とも、その根底にある優しさを壊したくなかったのだ。
自身の思いを伝えるよりも、相手を思って伝えないことを選んだのだろう。
「……貴方とこうやって一緒にいることって、とても凄いことなのね」
なんだかしみじみしてしまう。
館に来て色々なことがあった。
それらは少しずつ積み重なり、過去になっていく。
「そうかもしれない」
ユゼがそっと同意した。
あんなに冷たかったのに、随分と饒舌になったものだ。
今はそれが、素直に嬉しく感じる。
「それで話って?」
話を切り出すと、ユゼが掌に石を乗せて差し出した。
飴のような虫入りの琥珀がそこにある。
私は無意識に顔が引き攣った。
「花嫁の部屋で見つけたのだが」
「それは…」
「何があった?」
ユゼはもう、誰のものか検討がついているようである。
捨てるに捨てられなかった石。
私は答えられず、俯いた。
「……」
「謝らなければならぬことが、また増えたな」
「ユ、ユゼのせいじゃないわ」
険しくなるユゼの表情に私は慌てる。
ふぅと重くユゼが息を吐いた。
「……あの男には困ったものだ。暇になると私で遊ぼうとする。
だが、二度と花嫁に触れさせはしない」
掌の上で琥珀がゆっくりと転がる。
ユゼがきつく目を細めた。