一度人狼に噛まれた者を元に戻すことは、ユゼにも出来なかった。

出来るのは、症状の進行を止めるだけである。

体の時間ごと。


ユゼの眠っている時間は日に日に増え、結界が安定しない時期は特に長く眠り、力を温存していた。

体調の優れない中、よく気のつくルーがいてくれるのはとても有り難いことだった。

しかし、ユゼが長く眠りにつけば、その分ルーを孤独にする。

度々、敬われるだけの生活に飽いていた赤赦と紫焔がルーを欲しがった。

初めははっきりと断っていたが、ある時この館で話し相手もなく一人で時を過ごさせるは、可哀相なことをかもしれない。

そう気付いた。


ルーに尋ねれば、そんなことはない、目障りじゃないのならここに置いてくれと言う。

しかし、言葉とは裏腹にルーの面差しには寂しさが増していった。

特にそれは、赤赦の来訪を待っている時が顕著だった。

赤赦は、この館を尋ねる際、事前にその月日の連絡を寄越してくる。

しかし、ほとんどの約束が守られることはなかったのだ。


ルーは客人が来るのをユゼ以上に楽しみにしており、張り切って客室を整え、茶菓子を用意していた。


けれど、約束は破られる。

いつやって来るのか分からない日々は、約束の日までの時よりも数倍長く感じられる。

深まる孤独。


何度も同じことがあるうちに、いつしかルーはその不満を、赤赦への態度に出すようになっていた。

我慢していても、どうしようもないことが分かったのだと言う。

赤赦は、他の吸血鬼の血から力を得る代償に、頻繁に自分を見失った。

約束を守れないのは、忙しく違う予定が入ってしまうこと以上に、約束そのものも見失ってしまうかららしい。

だが、ルーに怒られたり、注意を受けると少しだけ約束を思い出すことが早くなると笑った。

何もなければ、何も残らない。

だけど、何かがあれば、何かが残るのだ、と。


そうすれば、良かったのかもしれない。

ユゼも我慢などせず、誰かに忘れないでくれと縋れば良かったのかもしれない。

自分はここにいると大声で叫べば良かったのかもしれない。



今更気付いたところで、どうもしようのない話だったが。