十日後。

はやる気持ちを抑えて、少女を置いて来た村へと向かう。

しかし、その村の入口でユーゼロードは足を止めた。

何かがおかしい。

村の空気が、ぴりぴりと痛いほどに張り詰めていた。

通り掛かった老婆に、何があったのか尋ねる。

足を止めて見上げた老婆は、ユーゼロードの青い髪を一瞬気にしたようだった。


「あぁ…、火あぶりがあったんだよ」

「火あぶり…?」

「人の生き血を奪う魔物が出たからね。最近は西の街が焼けたり、嫌なことばかり続くから困ったもんだよ」


嫌な予感がした。


「人の血を吸う魔物…?」

「そうさ、村の前に行き倒れていた若い娘がいてねぇ。死んだと思っていたら、突然人の首筋に喰らいついてきたらしくて…」


老婆は声を潜める。


「若いもんが言うにゃ、首を落としても死ななかったようでな。胸に杭を刺して、火で燃やしたらようやく跡形もなくなったのさ。

あたしはほっとしたのなんのって」


ユーゼロードは老婆の話の全てを聞き終わる前に、村の中へ走り、少女の姿を探した。

しかし、少女の姿はどこにもなかった。

村の広場には、僅かな灰が残っていた。

その灰が、少女の成れの果てなどと信じたくなかった。


「そんな……」


まだ、名も知らないのに。

あの、透明な声で名前を呼んで欲しかったのに。

あの少女となら上手くやっていけると思っていたのに。


そんな思いがさらさらと砂のように零れていく。


自分の浅はかさに、歯を食いしばった。


魔物。


あの老婆はそう言った。

自分と同じものになるということは、誰かを魔物にするということなのだ。

そんなことに、気付かないなんて。


誰かが傍にいて欲しいだけなのに、永遠に叶わないような気がした。




強い感情に、私は飲み込まれそうになる。

ユゼの苦い後悔が、私の胸を焦がした。

慰めようとする手はどうしても届かない。

これは、ユゼの記憶でしかないのだ。


その中で、私はとても無力だった。