突然、何かが転げ落ち、バチッと小さく爆ぜたような痛みを感じた。

私の服から、零れ落ちたものらしい。

それは、黒刺が置いていった、あの琥珀だった。

ユゼの体の上を転がっていく。


「こんな物、どこに入ってたのかしら…」


気味悪く思いながら、その琥珀を拾う。

部屋に置いておいたような気がしたのだ。


と、何かが考えている私の腕を掴んだ。冷たさが私へ伝わる。

ユゼの手だった。


私は、急いでユゼの顔を覗きこむ。

すると、細かな瞬きを繰り返し、ユゼの瞼が開かれていった。

氷色の瞳がぼんやりと宙を見つめる。


「良かった、目が覚めたのね…っ」


私は嬉しさのあまり泣きだしそうになった。


「大丈夫、何か欲しいものある?」


私の問いかけに、ユゼはゆっくりと首を動かし、私の方を向く。

その顔に、違和感を感じて、私は首を傾げた。


「ユゼ…?」


ユゼは、私の方を見ているのに、その瞳はまったく私を映していなかったのである。

ただ、瞼が開かれているだけ、そんな様子だった。


「ユゼ、私が分かる?」


呼びかけにも応じる気配はない。

ユゼの顔は虚ろで何を考えているのか分からなかった。

悩んだ末、ルーに相談しようと立ち上がる。

だが、その動きは腕を掴んでいるユゼの手によって阻まれた。


「痛…っ。…ユゼ、離して」


私の願いは聞きとげられず、ユゼの力は緩まなかった。

のろのろとユゼが起き上がる。

まだ寝ていて、と言おうとしたその瞬間、強く引かれて私はベットへ引きずりこまれた。

無理矢理仰向けに寝かされる。

私は黒刺とのことを思い出し、胸の辺りで手をぎゅっと握った。

ユゼはその行動を気に留めたふりさえしない。

見下ろすユゼの瞳は剣呑だ。

人を人と思っていないような、そんな冷たい光を宿している。


「ユ…ゼ……」


組み敷かれたまま、薄く唇を開いているユゼを見上げた。

この先何が起こるのか、嫌な予感ばかりが胸を過ぎる。


「お願い、離して……」


私の声は、誰にも届かずに消えていった。