吸血鬼の花嫁



私は、虫の閉じ込められている琥珀を眺めた。

飴色の、何の変哲もない石。

これに、一体どんな意味があるというのだろう。

あまり気分のいいものではなかったが、無為に捨てるわけにもいかず、石はまだ私の手元にあった。


あの日からもうすぐ五日になる。

黒刺の影への怯えもようやく薄らいで来た。

だけど、あの男の残した胸の傷と言葉の数々は消えずにまだ痛んでいる。


「愛や恋は欲には勝てない、か…」


本当はもっと楽しい気分にならなければいけないような気がした。

誰かを好きだと気付いたのだったら。

これからどうしようとか、どきどきするとか、好きになって欲しいとか、そういう気持ちに振り回されるはずである。

なのに、私の心は暗く影がかかったまま晴れなかった。

黒刺の言葉が呪縛のように重くのしかかってくる。

呼応するように、胸の傷がじくじくと痛んだ。


「ユゼにとって私は花嫁で。でも花嫁っていうのは、贄って意味で」


ユゼには私の他に花嫁がない。

少しずつユゼの態度が柔らかくなったのは、私が贄だからなのだろうか。

代わりがいないから、仕方なくここに置いてくれている。

仕方なく、嫌々で。

違う、なんて誰が言えるんだろうか。


「…違うわ。違う、違う」


そんな人じゃない。

私は首を振って、暗い考えを頭から追い出した。

黒刺の言葉に惑わされているだけだ。それじゃますますあの男の思うツボである。

長く離れているとユゼやルーの姿や性格が曖昧になっていた。

何が真実で、何が嘘なのか分からなくなっている。


「もう、考えない方がいいのかもしれない…」


私は深呼吸をして静かに瞼を伏せた。

と、同時に館の扉を叩く音が響く。


「誰…」


真っ先に黒い男の顔が脳裏に浮かんだ。だが、黒刺だったら玄関からわざわざ入って来ないだろう。

その必要がないのだ。

私は、玄関へ向かい、その扉を祈るような気持ちで、恐る恐る開けた。

立っていたのは、二つの人影だった。

私は驚きのあまり、息を飲んで大きく目を見開く。


「どう……した、の……」