アノ時、契約を交わした以上・・・



「っ・・・」


会社を眼前にして、泣いていてはダメ。




“まだ”秘書だと、認めてくれたから。


残されたリミットまで、努めなきゃ。



【立つ鳥跡を濁さず】でなければ。


本末転倒でしかなくなるもの・・・




先ほど私を諭してから、何も発しない社長。



チラリと、視線だけを動かしてみたものの。


クールな顔つきのままで、正面を見据えていて。



ブラウンの瞳の色を、理解なんて出来ないよ――




ポーチの中から、ファンデーションを取り出すと。


崩れきったメイクを、急いでリタッチした私。



瞳が真っ赤になって、瞼も腫れていて。


頬を伝った涙の筋跡が、チクチク心を痛めていく。




社長には結局、何も言えなかった・・・




“社長室まで我慢しろ”



アノ秘密の部屋が、私たちの分岐点ですか――?