「……坊ちゃま、そろそろ出発してもよろしいでしょうか?」

遠慮がちに発せられた山岸の言葉に、俺は窓から視線を外した。

黒沢の姿は、もうとっくに視界から消えていた。


「……あぁ。もう出してくれ」

そう答えると、車は静かなエンジン音と共に舗装された道路を走りだす。


車内には、物音一つない。

俺も山岸も口数が多い方ではないから、それが日常であり、当たり前だった。

今日も、この静寂に包まれたまま家にたどり着く……


―――――――はずだったのに。






「坊ちゃん、好きな奴でもいんのか?」

「……はぁ!?」




発車して一分もしない内に、静寂はあっさりと破られた。


「なんなんだ、いきなり!」

いきなり質問されて、しかもそれがあまりに想定外な内容で。

俺は思わず、大声を張り上げた。


「ありゃりゃ?
 何ムキになってんだよー。
 もしかして、図星?」

「な………っ」


金髪は助手席からヒョッコリと顔を出して、妖しい笑みを浮かべる。




好きな奴?

……俺が?


「そんなもん、いるわけねーだろ」




.