次の日の放課後。
「……なんでお前がいる?」
いつものように迎えの車の後部座席に乗り込むと、助手席に金髪の姿を捉えた。
相変わらず不釣り合いな黒縁の眼鏡をかけて、耳にぶら下がっている鬱陶しそうな飾りをジャラジャラ言わせている。
「なんでって……
専属執事なんだからいて当然だろ?」
欠伸を噛み殺して言う金髪。
「専属とか言ってる割には、今朝はいなかったじゃねーか。
どうせ、寝坊かなんかだろーけどな」
そう鼻で笑うと、金髪の顔が僅かにこちらを向いた。
トロンとした今にも閉じそうな瞳に、妙な色気を感じる。
それもこれも、こいつの不必要に整った顔のせいだろう。
「今朝は用事があったんだ。
なんだ、俺がいなくて寂しかったか?」
「……寝言は寝て言え」
それだけ言って、窓の外に目をやった。
「……あ」
ぼんやり眺めていただけなのに、俺の目は一人で歩いている黒沢を捉えた。
外から車の中は見えないので、向こうはちっとも気付いていないだろうが。
黒沢は俺の乗っている車など見もせずに、すぐ横を通り過ぎていった。
その時の二人の間の距離は、多分、1メートルにも満たない。
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