「圭史郎!!
お前、初っ端からなんてことをしてくれるんだ!」
山岸の怒鳴り声が、広い廊下に響いた。
「あ゙ー……廊下走ったことなら謝るからさ、早いとこ解放してくんない?」
圭史郎、と呼ばれた男は、怒り心頭の山岸を前にしても怯む様子はない。
それどころが、めんどくさそうにずり下がった眼鏡を直すと、
「あと二分で始まっちゃうんだよね、見たいアニメが」
と、○十万円もしそうな時計に目をやりながら、理解しがたい言葉を吐いた。
「…………アニメ?」
俺の中で、“圭史郎”という存在がますますワケのわからないものになっていく。
アニメ………って、
あの、“アニメ”だよな?
庶民のガキがよく見る、アレ。
それを見るために廊下を爆走していたらしい、この男。
奴のド派手な風貌と、アニメというものが、全く結びつかない。
反射的に山岸の顔を見ると、彼も似たようなことを思ったのか、口をポカンと開けたまま静止している。
そして、その数秒後。
「ばっっっっっかもん!!!!!」
それこそアニメでありそうなセリフが大音量で叫ばれ、俺は思わず耳を塞いだ。
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