“圭史郎”。


俺の記憶に間違いがなければ、聞き覚えのない名前だ。


俺はそんなことより、山岸の尋常でない怒りっぷりに開いた口が塞がらない。




………知り合って10年以上。


これほどまでに怒りを露わにしている彼を見るのは、初めてだった。




“圭史郎”と呼ばれた男。

一体、何者なんだ?









「うっせーなぁ〜……
 そんなに怒んなよ、オッサン」


長い廊下の、曲がり角。

“奴”は、そこから現れた。




日差しを浴びて輝く金色の髪。

両耳に開いたのピアス。

そして……




「廊下は走っちゃいけません……


 ってか?(笑)」


その容貌と、明らかに不釣り合いな……




黒縁の、メガネ。






(……なんだ、コイツは)


その時の俺は、多分人じゃないものを見るような目で奴を見ていたに違いない。


“得体の知れない奴”。




それが、俺の圭史郎に対して抱いた最初の印象だった。




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