次の日。
誰よりも早く学校にたどり着いた俺は、テニスコートに立っていた。
いつもなら心地良い春の風が、今日は苛立ちを募らせるだけでしかない。
纏っていたブレザーをその場に脱ぎ捨て、ラケットのグリップをきつく握り締める。
ボールを天高く放ると、思い切りラケットを振り下ろした。
風を切るような音がして、スイートスポットに当たったボールは向こうのコートのライン上に打ち付けられた。
何度も何度も、繰り返す。
心の奥底でくすぶる感情を……
ボールに、コートに、ぶつけるように。
「はっ!!!」
ありったけの力を込めて、打った一球。
しかしそのボールは、勢い余ってコートを飛び越え……
茂みの中に、入ってしまった。
「くそっ」
何もかも上手くいかない。
昨日転入生のことを耳にして以来、ずっとこの調子だ。
こんなに惨めな気持ちになるのも、そいつのせいに決まってる。
いっそのこと、追い出してやろうか。
俺の持っている権力を使えば、それくらい容易い。
―――そんなことを考えた、矢先。
ボールを取ろうとかがんだ俺の視界に、誰かの腕が伸びてきて……
落ちていたボールを、そっと拾い上げた。
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