「そんなにあの男がいいの?」

『……う、み』

「どうして僕を愛してくれないの?」

『海…』

「僕はこんなに愛してるんだよ?」

『うん。分かってるよ』

「分かってない!」

海が突然叫び、
肩を上下させて息を乱す。

少しの沈黙が流れたかと思ったら
息を整えた海は話し出した。

「陽は何にも分かってないよ。僕がどれだけ陽を愛しているか…… 陽は僕が一人になるのが嫌だから手放せないのだと思っているんでしょ? 全然違う」

『え?』


「最初はただ僕の側を離れない人が欲しかった。でも、今は違う。純粋じゃないかもしれない…間違っているのかも知れない……でも心から愛してるよ。愛を知らない僕でも分かったんだ…陽を見てると抱き締めたくなる。胸が温かくなる。キスしたくなる。僕を見ていないと辛くなる。一つになりたくなる」


海は一呼吸置いて、
優しい目をしてゆっくりと口を開いた―――


「誰よりも幸せでいてほしくなる。……それが“愛”でしょ?」

海があたしの涙を拭う。
今まで一番温かく感じる指で
他の人を想う涙を愛おしく拭った。