SIN (LOVE and DAYS・番外編②)


「……なんで?」


迷子の子どもがやっと親に会えたような声。


ここに千夜子さんがいることが信じられなくて

言いたいことがちっともまとまらなくて

俺はただ彼女を見つめるしかできなかった。



静寂に包まれた廊下。


涙のあとが残る頬を、俺は隠そうともせずに向き合っている。


いつも笑顔じゃなくていい。
時には泣いたっていい。

そう言ってくれた、千夜子さんの前だから。



「シンくん……」



先に沈黙を解いたのは彼女の方だった。



「あたし……N町の実家に帰ることにしたんだ」


「え?」


「両親が花屋をやってるから、手伝おうと思うの」


「それって……」



千夜子さんは大きな瞳に涙をためて、噛みしめるように言った。



「シン君のおかげだよ。

やっと植田さんから離れる決心がついたのは」