長い長い放心の末。
俺を正気に戻してくれたのは、吹きつける風の冷たさだった。
「……っぶしゅっ」
大きなくしゃみをして、ブルッと肩を震わせる。
否応なく反応してしまう寒さに、やっと動き出す思考回路。
夢から覚めたばかりのような、ぼんやりした頭で、俺はもう一度、窓の中に目をやった。
そこに広がる現実は、やっぱり何も変わらなかった。
いったい、いつ、どうして
千夜子さんは出て行ったんだろう。
どこに行ってしまったんだろう。
そんな疑問はもう、何の意味も持たない。
千夜子さんはもう、ここには帰ってこない。
「千夜子さん……」
冷え切った体。
鼻水をすすりながら、俺は真っ暗な窓に向かって話しかけた。
「好きだった……俺、千夜子さんが好きだよ」
届くことのない声だとわかっていても、言わずにはいられなかった。
呼びかければまだそこに、千夜子さんの笑顔があるような気がした。



