SIN (LOVE and DAYS・番外編②)


長い長い放心の末。

俺を正気に戻してくれたのは、吹きつける風の冷たさだった。



「……っぶしゅっ」


大きなくしゃみをして、ブルッと肩を震わせる。


否応なく反応してしまう寒さに、やっと動き出す思考回路。


夢から覚めたばかりのような、ぼんやりした頭で、俺はもう一度、窓の中に目をやった。


そこに広がる現実は、やっぱり何も変わらなかった。



いったい、いつ、どうして

千夜子さんは出て行ったんだろう。

どこに行ってしまったんだろう。


そんな疑問はもう、何の意味も持たない。

千夜子さんはもう、ここには帰ってこない。



「千夜子さん……」



冷え切った体。


鼻水をすすりながら、俺は真っ暗な窓に向かって話しかけた。



「好きだった……俺、千夜子さんが好きだよ」



届くことのない声だとわかっていても、言わずにはいられなかった。


呼びかければまだそこに、千夜子さんの笑顔があるような気がした。