気持ちを落ち着かせて、もう一度チャイムを鳴らす。
そのとき、玄関から少し離れたところにある窓が、目に入った。
「……え――」
思わず声がもれた。
さっきマンションの下から見上げたときには、暗くて気づかなかった、その真実。
俺は恐る恐る、窓に歩み寄る。
そしてはっきりと認めた光景に、言葉を失った。
カーテンがはずされた長方形の窓。
その向こうに広がる、何もない空間。
テレビも、ベッドも、壁かけの時計も。
何もかもがキレイに消え去った
ただの四角い空間だった。
……嘘、だろ?
何かのまちがいだろ……?
本能的に後ずさりした足がよろけ、廊下の柵に手をつく。
目の前にある空き部屋と、俺たちが笑い合ったあの部屋が、同じ場所だなんて思えない。
俺は時間を忘れたように、その場に立ち尽くしていた。



