マンションの下に着いたとき、見上げた千夜子さんの部屋の窓には、灯りがついていなかった。


それは留守を意味するサイン。

でも「ひょっとして」という考えを捨てきれず、俺は階段を一気にのぼりきった。



玄関の前で立ち止まる。


乱れた呼吸を整えて、チャイムを押した。


頼むから出てくれ。

そう祈りながら、何度も。


だけどドアはぴくりとも動く気配がなかった。


……やっぱり留守か。


俺はタッパーを入れた袋の持ち手を、きつく握る。


時間帯から考えて、仕事に行っているのかもしれない。


千夜子さんが惚れた男のいる、あの店に――…。



ズキン、と胸に走った重い痛みをふりはらうように、俺は頭をブンブンふった。



落ち込むな、俺。


千夜子さんの好きな男が誰であろうと、俺が千夜子さんを想っていることに変わりはないのだから。