俺は勢いをつけて起き上がり、階段をかけおりた。
大きな足音に驚いた母さんが、リビングから顔を出す。
「顔色変えてどうしたのよ、シン」
「このひき肉使っていい?」
リビングの隣の台所にかけこむと、冷蔵庫を開けて尋ねた。
「え? うん、いいけど……?」
ありがと、と早口で言って、ひき肉といっしょに卵と玉ねぎも取り出す。
そして俺は何年ぶりかに、自分ちのキッチンに立った。
――『シン君ってホント、料理が上手だよね』
『お婿さんにしてくれる?』
『それはやだ』――
俺が作った料理を、おいしそうに食べる表情。
うっとりと匂いをかぐ仕草。
今でもクッキリと頭に浮かぶ、千夜子さんの顔。
ふたりで過ごした短い時間の、ひとつひとつを回想しながら、俺は玉ねぎをみじん切りにしていく。