「あらぁ、アキ君もう帰っちゃうの?」
階段の下から聞こえる、普段より1オクターブ高い母さんの声。
「はい。お邪魔しました」
「またいつでもいらっしゃいね~」
玄関を開け閉めする音が、かすかに響く。
俺は枕元に置いていたタバコの箱に手を伸ばし、中から一本取り出した。
けどなぜか吸う気にならなくて、握りつぶしたタバコを床に投げ捨てると、ベッドに顔をうずめた。
千夜子さんが好きなのは、俺じゃない。
この想いに、彼女は応えてはくれない。
だけど俺の心に引っかかっていたのは、そんなことだろうか?
……違う。
本当は――



