「ま、仕方ないんじゃね?」
アキの顔が、ふいにこちらを向いた。
「両想いだけが恋愛じゃねーし。
お前がその子のことを本気で想ってんなら、それも立派な恋だろ」
「……」
俺が、千夜子さんを想っているのなら……?
「――さて、と」
アキは首をぽきっと鳴らし、立ち上がる。
「帰るわ。起こして悪かったな」
「あっ、おい、アキっ!」
俺はハッとして、部屋を出ようとする背中を呼びとめた。
アキが涼しい顔でふり返る。
さっきの俺のひどい発言なんか、きれいに忘れたような表情だ。
俺は急に恥ずかしさと気まずさがこみあげて、わざと乱暴な口調で言った。
「お、お前なぁ、ずるいぞっ! まだ話は終わってねぇんだからな!
お前、ホントは莉子ちゃんが――」
「さぁ? 何のことだかわかんねぇ」
アキはとぼけた様子で首をかしげ、小さく笑った。
それは秘密を共有する者同士の間で見せる、ちょっとイタズラっぽい微笑み。
「じゃーな、酔っぱらい」
それだけ言い残して、アキは部屋を出て行った。



