時計を確認すると、まだ夜の8時だった。
思ったより長くは眠っていなかったらしい。
「アキ、ひとりか?」
「あぁ」
ビールの空き缶をゴミ箱に投げ入れながら、アキが答えた。
「近くまで来たから、ついでに寄ってみたんだ」
“ついで”と言うやつに限って、本当は“ついで”なんかじゃない場合が多い。
何の用だろう、と考えていると、ふいにこちらを見下ろしたアキと目が合った。
「酒くせーよ、お前」
やわらかく微笑むアキの茶色い瞳。
なぜかそこに同情が混じっているような気がして、俺はとっさに笑顔を作った。
「うるせー。女の子と飲んでたら楽しくて、つい飲みすぎたんだよ」
おどけた声が、妙に白々しく響く。
アキは「そうか」と穏やかに言うと、壁にもたれて座った。
会話のなくなった部屋で、俺はタバコに火をつけた。



