「先生にそんな心配してもらわなくても、俺は俺でテキトーに何とかするからさ」


「こら、待ちなさい」



止める声を無視して進路指導室を出ると、放課後の廊下はすでに薄暗かった。


遠くの方からかすかに聴こえるのは、吹奏楽部の下手くそな演奏だ。



「シン~」



ふいに声をかけられ、顔を上げた。

二階に続く階段の踊り場で、同じクラスの女子が手を振っていた。


俺が笑顔を返すと、彼女は小走りで階段をおりてくる。



「シンったら、放課後つきあってくれるって約束してたのに、どこ行ってたのよぉ?」



すっかり忘れていた俺は、「あぁ~」と曖昧に笑ってみせた。


俺のそばまで来て、上目づかいで唇をとがらせる彼女。

たぶんそれが、自分的に一番かわいい表情なんだろう。



「悪ぃ。進路のことで担任に呼ばれてた」


「シン、まだ進路決めてないの?」


「うん」


「でも身近に月島くんみたいな人がいると、ちょっと焦ったりするでしょ」



俺は肩をすくめ、笑顔の下でため息を抑えた。