「え?」
考えたことすらなかった、と言うかのように。
真っ赤に充血した千夜子さんの目が、丸く見開いた。
「俺、千夜子さんがこんなことで泣いてるの、見たくねぇんだよ」
「………」
涙はもう止まっていた。
あまりの驚きで止まってしまったんだろう。
千夜子さんは視線を泳がせながら、しきりに瞬きをくり返す。
濡れたまつげが、微かに光るのが見えた。
「でも、あたし……今すぐ仕事をやめるわけにはいかないし」
やっと口を開いた千夜子さんの返事は、これだった。
俺の告白に対しては触れてもこない。
わざと触れないようにしているのかもしれない。
目も合わせてくれない千夜子さんが歯がゆくて、俺の声に、力がこもる。
「別に千夜子さんは、借金とかあるわけじゃないんだろ?」
「………」
「じゃあ昼の仕事で暮らしていこうと思えばできるじゃん」
「でも……家賃とか払う自信が……」
「俺、春になったら社会人だから、少しは稼げるようになるよ」
「え?」
「そしたら一緒に住もうよ」



