「……仕事」
聞き取れないくらい小さな声で、千夜子さんは言った。
「もうダメかもしれない」
事情は、こうだった。
俺が以前、千夜子さんの店に偶然飲みに行った日。
例のおっさんと口論になり帰った俺を、千夜子さんが追いかけてくれた日だ。
あのとき無断で仕事を抜けたことで、千夜子さんは当然、店側から厳しく注意された。
それだけなら良かったのだが、結果的に例のおっさんは、別の女の子を指名するようになったらしい。
おまけに“仕事に対する責任感がない”というレッテルを貼られた千夜子さんは、スタッフからも同僚からも、浮いた存在になってしまった。
もともと水商売に向いているタイプじゃない彼女が、周囲とぎくしゃくしたまま働き続けるのは、相当なストレスだっただろう。
そんな中、今朝から突然の高熱に襲われた。
運悪く今日は、店の5周年記念の日。
キャストは総出で働くことになっている。
だけど千夜子さんはベッドから起き上がることすらできず、泣く泣く「休ませてほしい」と電話を入れたところ
マネージャーから冷たく言われてしまったらしい。
「このままずっと休んでいいよ」と。



