その日を境に、俺は千夜子さんの部屋をたびたび訪れるようになった。
たとえば友達と遊んだ帰り、マンションの近くを通りかかった時なんかに、ぶらりと。
3階の窓から灯りがもれているのを確認すると、俺は、さもついでのように、彼女の部屋のチャイムを押す。
ドアを開けた千夜子さんは、俺を見ると目を丸くして
「急にどうしたの?」
と毎回言う。
その、語尾の上がる訊き方が可愛くて
極上の「どうしたの?」が聞きたくて
俺は前もって連絡もせず、急に来てしまうんだ。
「どうもしてないよ。近くに来たから寄ってみただけ」
そう言いながら俺は部屋にあがり、学ランを脱いで腰を降ろす。