俺は首を振ったけれど、千夜子さんは何度も「ごめん」と言い続けた。
しだいにそれは、店での出来事に対する「ごめん」に変わっていった。
「……さっきのお客さんね、いつも指名で来てくれる常連さんなんだ。
もともとマネージャーの知り合いの人だし、むげにはできなくて」
「うん」
「だから今日お店で、シンくんのことを問い詰められたとき、“よく知らない子だ”って答えてしまったの……。ごめんなさい」
「ううん。それが千夜子さんの仕事なんだから、しかたないじゃん」
「仕事……」
口の中だけで発音するように、つぶやく千夜子さん。
「……あたしの仕事、か」
違和感をむりやり噛み砕くような表情をしたかと思うと、千夜子さんは深くうつむいて黙ってしまった。
「千~夜子さん!」
俺はさらに彼女の顔をのぞきこむ。
「そんな暗い顔してたら、よけいに暗くなるよ?
笑って、笑って」
ねっ?? とおどけた口調で言うと、千夜子さんは少しだけ微笑んでくれた。
その笑顔は、俺を、単純なくらい嬉しくさせる。



