「え…っと、そうだ! 何か飲む?」
千夜子さんが早口で訊いてきた。
一瞬の沈黙すら怖い、といった様子で。
「じゃあコーヒーお願い」
「ホットでいい? 砂糖とかミルクは?
あっ…、ミルク切らしてるんだった……」
「いいよ。ブラック好きだし」
「ちょっ…ちょっと待ってね。牛乳なら冷蔵庫にあるかも!」
「いや、だからブラックで」
「あーっ、ごめん! 牛乳も切らしてた――」
「千夜子さん」
まったくかみ合わない会話を止めるように、俺は冷静な声を出した。
千夜子さんはビクッと体を震わせて
「はいっ」
と小さく返事した。
「……あのさぁ」
俺はため息をつきながら、軽く曲げたひざに手を置いて、彼女の顔をのぞきこむ。
「そんなに緊張しなくても、俺、何もしないから大丈夫だよ」
「……っ」
「始発の時間まで、部屋のすみっこで大人しくしてる。
だからそんなに怖がらないで?」
「ごめん……」



