「あっ、でもシン君のせいじゃないからねっ。あたしが勝手に走ったせいだし」
気を使わせまいと、一生懸命に説明する千夜子さん。
その姿を見ながら俺はポリポリと頭をかく。
……変な子だよなぁ。
わざわざ俺にあやまるためだけに、仕事を抜け出して。
おまけにケガしてる足で走ってさ。
「ねぇ、千夜子さん」
不思議な気持ちだった。
男とか女とか
オトナとかコドモとか関係なく
千夜子さんというひとりの人間が、俺の心の中にすっと入ってくる。
そんな感じだった。
「部屋に着くまで、千夜子さんを抱っこしてもいい?」
「えっ?」
「その足で階段とか上ったら、よけい腫れるかもしんねぇし」
「………」
昨日は強引に抱っこしたくせに、こんなことを訊くのは今さらかもしれない。
けれどなぜか、このときの俺には、彼女に気安く触れるなんてできなかったんだ。
千夜子さんは言葉を探してとまどっていたけれど、俺が純粋にケガを心配しているのだとわかると
「……じゃあ、お願いします」
と、うつむき加減でつぶやいた。



