SIN (LOVE and DAYS・番外編②)


“20分くらいだな”


ハルキさんの言葉はつまり、


“その間にちゃんと話すんだぞ?”


って意味なんだと思う。



話したいことは、いっぱいある。

聞きたいことも、いっぱいだ。


いっぱいすぎて、車内は妙な空気に包まれていた。


普段は口数が多いはずの俺が、冗談のひとつも言えなくて。


オーディオから流れる流行りの曲に、「あ。俺、これ好き」なんて言ってみるけれど

そんなセリフは会話の糸口にもならず、肝心なところからよけいに離れていく気がした。



そうしているうちに、あっさりT町に着いてしまった。



「すみません……次の信号で降ろしてもらえますか?」



マンションより200メートルほど手前で、千夜子さんが言う。


車はするするとスピードを落とし、停止した。



「……ありがとうございました」



千夜子さんはハルキさんにお礼を言うと、ゆっくり車から降りた。


そしてドアを閉める寸前、俺と目を合わせた。



「さっきは嫌な思いさせて、本当にごめんなさい」



ううん、と俺は明るい声で言う。



「……じゃあ」


「うん。おやすみ」



弱々しい音とともに、ドアが閉まった。


かすかに漂う柑橘系の香り。

さっきまで気付かなかった彼女の香水が、今頃になって鼻をくすぐった。



「携帯の番号くらい聞けばよかったのに」



ハルキさんの言葉に、俺は首を横に振る。