車の後部座席に乗り込むと、すぐさまスーツの上着を脱いだ。
そして、車内に置いていた学ランに手を伸ばす。
――『高校生なんかと付き合うわけがないってな』
ふん。年食ってることがそんなに偉いのかよ。
オッサンの高慢な態度を思い出し、俺は心の中で悪態をついた。
……早く制服に着替えよう。
こんな借り物のスーツ、さっさと脱いでしまおう。
「災難だったな、シン」
運転席からハルキさんが言った。
「便所行ったかと思ったら、変なオヤジに絡まれてたからビックリしたぞ」
「……すみません」
「酔っぱらいはタチが悪いよなぁ」
ハルキさんは煙草を取り出しながら、ゆったりと笑う。
キャバクラ好きのくせに酒が嫌いなこの人は、ウーロン茶しか飲まないんだ。
“酔っぱらいはタチが悪いよな”と、いつも口癖のように言っている。



