SIN (LOVE and DAYS・番外編②)


不穏な空気は周囲のテーブルに伝染し、半径数メートルから笑い声が消える。


近くにいた黒服の視線が、注意深くこちらに向けられた。


千夜子さんはソファから腰を浮かし、オッサンをなだめようとしている。



「お前、ちぃちゃんの彼氏だなんて、よくも嘘ついてくれたな」


酔っぱらい特有の大きな声で、オッサンが言った。



“よくも嘘ついてくれたな”


あまりにも子供じみたその言い方に、俺が唖然としていると、オッサンはさらに勝ち誇った口調になった。



「お前とは恋人でも何でもないって、ちぃちゃんが説明してくれたぞ。
高校生なんかと付き合うわけがないってな」



瞬間、千夜子さんの顔がカァッと赤く染まった。


いつもなら彼女をさらに幼く見せる、赤面の表情。

だけどこのときはなぜか、ずるい大人の顔に見えたんだ。



「お客様」


そばで様子をうかがっていた黒服が、俺に向かって口を開く。


さっき千夜子さんが“マネージャー”と呼んでいた、細身の男だ。