聞き覚えのある声に、「まさか」と思う俺。


会うわけがない。

こんな偶然、ありえない。


飲み屋なんか腐るほどあるんだし。

昨日の今日で、まさかさ。



けど、その「まさか」だったんだ。




「……千夜子さん?」


「え?」



スーツを着ているせいか、すぐには俺だと気づかなかったらしく。

初めての客にいきなり本名を呼ばれ、丸い目をさらに丸くする千夜子さん。


そして、やっと俺だということに気がつくと


「あーっ!!!!」


店内に響き渡るボリュームで、叫び声をあげた。



「ちょっ……マネージャー! この人、高校生――」


「ちょっと待った!」



黒服を呼ぼうとした千夜子さんの腕を、強引につかんで隣に座らせる。



「その高校生に昨日助けてもらったのは、誰だっけ?」


「……うっ」


痛いところをつかれた千夜子さんは、悔しそうに黙りこんだ。



恩着せがましいのは好きじゃないけど、この場合はしかたないよな、うん。




「今日は俺、成人ってことで。
ヨロシクね、ちぃちゃん」


「………」