「どういたしまして。じゃね」
「あっ」
帰ろうとした俺を呼びとめるように、彼女が声をあげた。
「……何?」
「いや、あの……」
歯切れの悪い彼女に、俺が首をかしげていると
彼女はくじいた右足を地面から浮かせ、消え入りそうな声でつぶやいた。
「実は……うちのマンション、エレベーターがなくて」
ああ、はいはい。
そういうことね。
やっと理解した俺は、彼女の体をひょいを持ち上げる。
いわゆるお姫様だっこ。
彼女の方は、まさかこんなことをされるとは思っていなかったらしく、
「ひゃあっ!」
赤い顔で奇声をあげた。



