タクシー乗り場まで連れて行くつもりだったけど
自宅の住所を聞いたらすぐそこなので、そのままおんぶで送ってあげることにした。
「ちょっ……もう大丈夫だから降ろしてよっ」
背中から聞こえる非難の声も、降りようと暴れる体も、シレッと無視。
だってどう見ても大丈夫じゃねーし。
目を離すと危なっかしそうだし。
彼女の家には、あっという間にたどり着いた。
築30年は優に越えていそうな、おんぼろマンション。
「着きましたよ~、姫」
マンションの前で彼女を降ろしてあげる。
橙色の街灯の下、唇をへの字にする彼女は
「……送ってくれて、ありがとう」
と、一言ぽつり。
……表情と言葉がまったく合ってねぇ。



