「橘のやつ、おそらく今年も留年だろうなあ。
本来ならお前たちと一緒に、もうすぐ卒業だったのにな」



昨年、アキのクラスを受け持ったこともある担任は、元教え子がそれなりに心配らしい。



「うん……でもまあ、アキが選んだ道だし」



俺がぽつりと言うと、担任は小さく首をかしげた。



「まわりから見ればわかんなくてもさ。
たぶんアキはいつだって、自分の信じた道を進んでると思うんだよね」



俺がこんな発言をするのがよっぽど意外だったのか、担任はポカンと口を開けている。




「それとね、先生。
俺、進路決めたよ」


俺はニカっと笑って言った。



「え?」


「板前の修業する。料理人になりたいんだ」



担任の目がパチパチとまたたいた。


進路相談室の常連と化していた生徒が、やっと将来の目標を決めたっていうのに、喜びより驚きの方がデカイようだ。



「そ、そうか……。たしかお前の家は、お父さんやお兄さんも料理人だったな」


「うん。それもあるし、何より」



俺は目をつむり
なつかしい笑顔を頭に描いた。




「俺が作った料理で、喜んでもらいたい人がいるから――…」