「まもなく最終電車が到着します」
構内に響いたアナウンスに、俺たちは顔を見合わせる。
それまで笑っていた千夜子さんの顔に、ふっと浮かぶ泣きそうな表情。
俺は何も言わずにうなずき、千夜子さんの手を取って立ち上がった。
見送りは、改札口までにした。
切符を通して千夜子さんが進むと、ふたりの間には1メートルほどの距離ができた。
「ありがとう」
つぶやく千夜子さんの顔を、電車のライトが横から照らす。
「元気でね」
「うん」
到着した電車から、人がまばらに降りてきて
向かい合う俺たちの横を、気にするそぶりもなく通り過ぎていった。
そして、発車を告げるベルが鳴り響く中。
千夜子さんは、しっかりした足取りで歩き出す。