それから俺たちは駅に向かった。
終電間近の改札口は人気もまばらで、どこからか野良猫の声が聞こえていた。
電車がくるまでの数分間、ふたりで並んでベンチに座って、缶コーヒーをすすった。
それはとても静かで。
胸がチクチクするのに、なぜか満たされていて。
たしかに幸せなひとときだったんだ。
「あ、そうだ。これ」
俺はタッパーの入った袋を千夜子さんに渡した。
「実家で食べて」
「何?」
袋に鼻を近づけて、匂いをかぐ千夜子さんの仕草。
見ているだけで、自然に笑みがこぼれてしまう。
「何だと思う?」
「わかんない」
「ヒント。ひき肉と、玉ねぎと」
「あっ!」
千夜子さんが目を輝かせて叫ぶ。
いろんな千夜子さんを見てきたけれど、やっぱりこの顔が一番好きなんだよな。
「ハンバーグ!?」
正解、と俺は笑った。



