高瀬君が男子更衣室から出てくる前に、部室を出た。
避けてるとか、そういうんじゃないけど。
仮にも遅刻の身。
それに早く保健室へ行かなければ。
白い上履きに血が滲み始めている。
保健室の前に立ってノックをすると、「はあい」と女性の声がしてドアが開き、招き入れられた。
実は保健室とは無縁のあたし。
今年の春に赴任してきたこの女性と顔を合わせるのは初めて。
あたしは丸椅子に座らされた。
ジャージを捲り上げ足の傷を見せると、先生はきれいな顔をしかめた。
「これ、どうしたの?」
しかめた顔まであんまりきれいだ。
女優さんみたい。
「転んだときに何かに引っかけたみたいで……」
先生は消毒液やらを取り出して処置を始めた。
「昼休みと放課後もいらっしゃい。ちょっと深いかもしれないわ」
確かにちょっと、血が出過ぎかなとは思う。
雨に濡れたせいもあるかもしれない。
まあ、なかなか止まらないってだけで死ぬほど出てる訳じゃないけど。
「病院行った方がいいですか?」
「そうね。だいぶ痛む?」
「ちょっと……じんじんするかも。たまにズキッとします」
「病院は放課後で構わないと思うけど、気を付けてね。運動はだめよ」
いい終えるとほぼ同時に先生は包帯を留めて、処置が終わった。
「さ、授業に出なさい。4時間目には間に合うわ」
あたしは先生に促され、保健室を出た。
お礼を言おうと振り返ると、先生はいつの間にかすぐ後ろに立っていた。
それから天使みたいに微笑んだ。
「あなた、そろそろ知りなさい。そして認めた方がいいわ。彼には私から急ぐよう伝えておきます」
ドアは静かな音を立て閉められた。



