騒ぎが収まった後で、元の場所に掛けられているのを使用人が見つけたらしい。
「狙いは掛け軸じゃなかったんだな」
十星が去り際に投げたナイフは、庭の紫陽花の茎を切り落としていた。
予告状に掛け軸のことを書いたのは注意をそちらに向けるためで、狙いは庭の紫陽花とあたしだった、ということらしい。
しかし紫陽花に意味があるとは考えにくい。
そこで、狙いはあたしとの接触、または接触して何らかのアクションを起こすことだったのではないか、という結論に至ったのだけれど、それにしても手が込んでいる。
「十星に何か言われたのか?」
会沢藤五郎があたしに訊ねた。
十星は口元を覆い隠していたので口の動きはほとんどわからない。
声もくぐもって、抱えられていたあたしにようやく聞える程度の大きさだった。
あたしとの接触が目的だったと仮定するなら、当然の質問。
皆の視線があたしに集中する。
「え……と」
き、緊張する。
助けを求めるように大貴に目をやると、大貴だけはどこかを遠くを見るように考え込んでいる様子だった。
「特に、何も……」
何故、あたしの腕を折ったのか。
おばあちゃんのところへ通うのか。
何故あたしたちの周りをうろつくのか。
『全てを見せてあげるから』
十星が落としてきた、謎。
説明するには長過ぎる話だし、この場で話すべき内容だとも思えない。
ほとんどあたしと十星の問題で、ここにいる人たちに関係ない話ばかりだ。
……自分でも説明のしようがないくらい、よくわかっていないというのが正直なところだけど。
「ふむ」