狭いカラオケBOXの一室。

さっきから一向に途切れない、気の抜けたメロディーライン。
余りの息苦しさに、俺のイラつきは限界なしに上昇中。


あかん。
トリハダがとまらへん。


込み上げる吐き気を閉じ込めようと烏龍茶に手を伸ばす。
そして携帯で時間を確認してまた重苦しい気持ちに襲われた。


何や、
まだ30分しかたってへんとか。
マジで恨むわあの男。


苦々しい目付きで斜め前に座るリョウに視線をやると、隣の女とやたら密着しながらいちゃつき中で。
舌打ちをしながら顔を背ける俺。


楽しんでんのお前だけやろ、ボケ!


と蹴り倒したい気持ちを必死で押さえ込んだ時、さっきまでマイクを持ってた女が俺の隣にドサリと座った。


「あーやっぱ今の曲キー高すぎ。
喉乾いちゃった!
ねぇ、それちょうだい?」


媚びるような上目遣いをして俺の烏龍茶に手を伸ばした女。


キモいな。
頼むから今すぐ消えろや。


「オイ、やめろ。
お前自分のあるやん」

「だって私のアイスココアだしぃ。
さっぱりしたの飲みたくなっちゃったんだもん」

「やったら今すぐ自分で持ってこい。
どうせ飲み放題なんやし」


そして、そのまま帰れ。
その残念なツラ、俺に二度と見せんな。


愛想の欠けらもなく冷たくあしらったのに、その女は少しも気にした様子もなく俺の身体に擦り寄って口を小さくすぼめた。


うっわー、目腐る。
ほんま全然可愛くないねんその顔。
烏龍茶の前に便所行って鏡確認して来い。


「えー冷たい。
ケンゴ君って流行のドS?
ツンデレ?
いやーん、超タイプ何ですけど〜」


そうしてクネクネしながら俺の烏龍茶を一気飲み。


「…………」


もはや引きすぎて反論すら出来へん。
意志の疎通すらままならん。
隣の家の雑種犬のが、よっぽどその場の空気読むで。