――――――

音もなく。
静かに通り抜けた教室の出入口。

そうしたら廊下に寄りかかって腕を組む女が呆れたように俺を見た。


「……あんた、いったいどこの暗黒面?」

「は?何が」

「たから!
どこまで悪人気取れば気が済むんだか。
あれじゃあんたの評判がた落ちじゃない」

「どうでもええわ、そんなん」

「あ〜、だろうね」


神妙な声でそう呟いて、廊下を歩く俺の後に続く柳田。

全くいつからそこにいたんだか。
立ち聞きなんて趣味悪いわ。

下らん行動を見られた嫌悪感でこっちはかなりイラついてたんに、コイツはその反対。
どこか機嫌良さげに口の端を上げた。


「でもさ、途中疼いて仕方なかった。
今私が教室に乗り込んで、私とあんたの関係全部嘘だってバラしたらいったいどうなるんだろうって」

「……オイ」

「だってさ、私の証言次第で場がびっくり変えるかもしれないゾクゾク感?
想像したらたまんなくなっちゃって」


ほんまコイツ危険人物や。

そんなんされてたら……と考えるだけでうんざりする。

もしやとんでもない女に弱味を握られてるかもしれん事実に、色々浅はかすぎた自分を呪いたくなるし。


「頼むから余計な事すんな」

「わかってるってば!
それにしてもよかったね〜。
あんたの迫真の演技のおかげでやっと彼女も気付いたんじゃない?
身近なところに王子様がいたって事に」

「……演技ちゃうし」

「へーぇ、ふーん。
じゃあそういう事にしといてあげるよ」


だからニヤニヤ知った顔すんのやめろ。

返事のかわりに舌打ちを返したのに、全く懲りずに更に余計な事を話しだす。


「すぐにカップル誕生とか、そんな都合良くはいかないだろうけど、あの二人ならきっと上手くいくよ。
初恋の相手同士だし、結構お似合いだしね。
あんたとミヤちゃんに引けをとらないぐらい」

「――柳田。
妙な励ましはいらんから」

「え〜だって本当だもの。
あんたのお友達の美男美女カップルと同じく、わが校きっての名物カップルだったからねあんた達2人」


“お友達”ってもしやリョウとアキ?
あいつらにって。
冗談やろ。