「は?引越し?」


中学三年の冬、両親にいきなり告げられた死刑宣告。

普段余程の事でもない限り動揺しない俺の強靭な精神も、この時ばかりは赤いサイレンをならした。


――危険、棄権。
現実を受け入れるな。


やって俺が生まれ育ったのはここ大阪。
他の場所なんかよう知らん。
骨の髄まで関西の気質が染み付いてんねん。

なのに行き先は東北地方のとある都市。


普通転勤とか言ったら東京とかやろ?
……もしかして左遷?
クソ親父、何やってんねん。

とか俺は長年尊敬してた父親に本気で殺意を覚えた。

(まあ実際には出世したらしいけど、その辺の難しい事はようわからん)


「俺はそんな訳わからん場所、絶対いかへんからな!!」


両親に宣言して、それから抗議の如く何度も家出を繰り返して――その春。
ふて腐れた顔で飛行機に乗る俺。

この時ほど無力な自分を悔やんだ事はない。

所詮俺は親に養われてる立場の子供。
拒否権なんて小指のカケラほども存在しないんや。


……あぁ終わった。


飛行機の窓から覗く、嫌味なくらい青々とした空を眺めながら俺は悟った。


これまで順風満帆に過ごしてきた俺の人生はもはやここまでや、と。

(今考えたら大袈裟過ぎて笑えるな。
まぁ若気の至りや)