「遅くに行ったら他にお客さんいなくて、ちょっと話しちゃった」

「店員さんと話したの?」
僕は思わず彼女の方をみて言った。

「うん、旦那さん、麻雀が好きなんだって」

「奥さんは、亡くなったんだって」

僕は黙って頷いていた。

「娘さんは、気まぐれなんだって」

「なにそれ」

僕がそう言って、繋いだ手を前後に揺らす速度が、落ちる。

「オムレツに、パセリを乗せたり、乗せなかったりするらしいよ」

「ふーん」とだけ僕が言うと、雪乃は手を大きく揺らして、

「全然興味ないって感じだね」と言った。

何か言うと、ボロが出るのではないかと戸惑うのは、
心がやましい者だけなのだと思った。