――三年前

恵、瑞樹、中学三年生の春










◆◆◆

桜の花びらが、はらはらと舞う季節。


「退屈だなあ…」

何も変わらない風景の中、僕は新しいクラスの新しい席に腰を下ろして本を開いた。

自分で言うのもなんだけど、家は結構なお金持ち。文武両道。いやらしい話、女の子に困った事も、友達に困った事もない。

恵まれた環境で育った僕。

野々上 恵

こんなに名前負けをして無い奴は、他にはいないよとよく言われていた。

嫌味かな?

別に、望んでこんな環境で育った訳じゃないんだけどな。なーんて事は口が裂けても言えないけど。

「またつまんない一年になりそう」
「なにがつまんないのぉ?」

読んでいた本をぱっと取り上げられ、そのまま視線を泳がせると。うん、知らない顔。

この子誰だっけ。

「恵くんと同じクラスで嬉しいなぁ。ふふふ、今年も宜しくねぇ?」

さーて。

こんな風にねっとりと喋る子、ほんと誰だっけ?今年もって事は去年も同じクラスだったのかな。ダメだ、思い出せないや。