お腹を抱えて笑う先輩に、思わず赤面してしまった。ヤだ、なにこれ初恋?

「あーもう、久しぶりにこんなに笑ったよ。何かありがとうね?」
「…へ?」

ここへ来て、

まさかのお礼に目が点になる。先輩は一瞬だけ視線を落とし、眼鏡を机の上に置いた。そして、真っ直ぐな瞳で俺を見てくるから。だから、囚われて動けなくなる。

ピシッと固まる俺に、先程とは打って変わって控えめにその白い歯を覗かせると。


「東雲君と瑞樹の事でしょ?」

確信をつかれた。

「全部、お見通しですか?」
「まあね」
「…っ」
「だってさ、それ以外にキミが僕の家に来る理由は無いと思うんだよね?」

机に置いた眼鏡を、人差し指で弄りながら先輩は言う。いや、はい。全くその通りで。

「それに、僕もキミとはゆっくり話がしたかったんだ」
「え、……俺と?」

「そ、甲斐君と」

きょとんとする俺に、先輩はもう一度小さく笑った。何故かとても寂しそうな瞳で…







「ちょっとだけ、昔話に付き合ってくれる?」

予感が、した。

引き返すなら今だと。聞かなくてもいい昔話、聞かずともいい昔話。


聞いてしまえば、きっと俺は。