「はい、ドンピシャリ」
モニター付きのインターホンの前で、もう一度だけ息を整える。
しっかし改めて見るとほんと豪邸。大きな門に高い塀、立派な松も若干見えてるときた。これは確実に池があって鯉もいるな、ウン。
「イケメンで金持ちがなんだってヤンキーしてんのかねえ…」
再びぶつぶつと愚痴を零しながら、俺は迷わず呼び出しボタンを押す。
さーてさて、誰が出てもぜってえー繋いで貰うかんな!門前払いだけはマジで勘弁!
鼻息をフンスフンスと吐き出しながら、自分の演じる役を考える。俺は、野々上センパイのかわいいかわいい後輩だと。
『どちら様でしょうか?』
聞き取りやすい高音に、滑舌。
ここからが勝負。ここからが、本番。
「あ、夜分遅くにすみません。僕、恵先輩の後輩の甲斐充と申します。先輩はご在宅でしょうか?」
『恵さまのご学友の方ですね?少々お待ち頂けますでしょうか』
「ええ、問題ありません」
ふは。
俺、俳優になれんじゃね?
そんな自画自賛と、拍手喝采クラッカー連発を今すぐにでも披露したいところだけれど。一先ず、ほっと安堵の胸をなでおろす。今はこれで充分。
初っ端の門前払いを回避できただけでも上出来だしな。おしおし。次のステップは、そう。この大層立派で厳重な門が開くことを祈るのみ。問題なく、スムーズに。
『甲斐さま、でしたね?』
「…はい、甲斐です」
俺、どうなる?



