「っく、ひ……ぅゔ」

使い古された表現だとは思うけど。まるでランドセルが歩いてる。そんな感じの頼りない後姿を晒しながら、一人の男の子が校庭をとぼとぼ歩いていた。

「ぎーんちゃん?」

軽くランドセルを叩いて声を掛けると、慌てて涙を拭い笑顔を見せてくれるこの少年。

東雲 銀、俺の幼なじみだ。

ちっちゃくて女の子みたいな可愛い顔をしている銀ちゃん。そんでもって、かなりの天然で泣き虫。これらの理由により、銀ちゃんは下級生、同級生、上級生、各方面からイジメられていた。

まあ、なにがビックリって普通イジメって陰湿で非道極まりないものだけど。銀ちゃんの場合、ちょーっとだけ種類が違ったんだな。

「今日は何されたんさ?」
「―――」

オーケーオーケー、この完全ダンマリ戦法。これは絶対に言いたくない事をされた時にとる銀ちゃんの必殺技だ。って事は、なるほど。相当ヤられちまったんだなあ…

「笑わないから言ってみ?」
「―――」

オーケーオーケー、ここまでがテンプレ。想定内。べべべべ、別にイ?フル無視が寂しいとかア?そんな事言いませんしイ!

「ミツ、漏れてる」

オーk…いや。もうオーケーとか言って場合じゃねーよ。やべーよ。心の声が漏れてたよ。銀ちゃんに突っ込まれちゃったよ。

「だから、漏れてる」

やべーよ。もう取り返しつかねーよ。神様どうか俺の頭めがけてメテオドライブ落としてくれくださいお願いします。

「ミツが死んだら、嫌だな…」

やべーよ!もう何もかもがやべーよ!色んな意味でやべーよ!こうなりゃ誰でもいいから俺を殴り飛ばして亀甲縛りで東シナ海に放流してくれくださいお願いシャアアス!アレッ、俺マゾじゃない!

なんて、一人虚しくボケ&ボケの応酬をレリゴーしていたら。銀ちゃんは遥か遠く豆粒大になっていた。慌てて追いかけるも時既に遅し。

唐突に、――魔王降臨。