少しの沈黙の後、ティースプーンを置く小さな音が耳に届き。そして、

「銀に、口止めされてるんだ。もし、万が一あいつらが来ても居場所を教えるなって」

どくんと、心臓が大きく跳ねる。 

「杏姉!でも、俺た…」
「でもさ、私はもう言っちまったよな?蝶の墓参りだって。この意味、解るか?」

ぱっと顔を上げて杏姉を真正面から見た。

「お願いだよ、銀を助けてやってくれ。“過去”から救い出してやってくれ。私じゃ駄目なんだ…私じゃ…」

顔を上げた杏姉は、涙を堪えて俺を見つめ返してくれる。ありがとう、杏姉。

でも、一つ間違ってるよ。杏姉は銀ちゃんの大切な人で、支えになってるんだ。杏姉じゃ駄目なんて事はないんだよ。

 
「杏姉、ありがとう…」

ぽそりと呟いて、俺はもう一度頭を下げた。隣では爽と要も頭を下げた状態のままで、それぞれに思いを馳せている。



「此処に銀は居るよ」

震える声と共に差し出された紙切れ。そこには簡単な地図と、住所が書かれていた。此処に、銀ちゃんが居る…

「銀を、頼んだよ」

「…っ勿論!」
「絶対に、銀を連れて帰ります」
「お任せ下さい、お姉さま」

俺達は紙切れを受け取り、杏姉と固く約束をして東雲家を後にした。

さあ、取り戻そう。

あの日見た寂しそうな笑顔じゃなくて、無邪気に笑い合えていたあの頃の笑顔を。